1. はじめに
地震応答解析において、構造物の振動特性を理解するために、モード法と直接法という2つの解析手法があります。通常、線形解析ではモード減衰を適用し、各モードの応答を評価することで全体の応答を算出します。しかし、弾塑性挙動を考慮した非線形解析では、直接法が必要となり、この場合にはモード減衰が使用できません。その代わりに使用されるのが、レーリー減衰です。
2. レーリー減衰とは
レーリー減衰は、解析を簡便に行うために使用される方法で、減衰マトリクスを質量マトリクスと剛性マトリクスの線型和として定義します。この方法を用いると、複雑な減衰特性を簡略化し、解析しやすくすることが可能です。
減衰マトリクスの設定
減衰マトリクス C は次のように表されます:
- M : 質量マトリクス
- K : 剛性マトリクス
- α : 質量比例減衰定数
- β : 剛性比例減衰定数
3. 減衰定数 α と β の算定
レーリー減衰の設定には、2つの固有振動数を選定する必要があります。この振動数は、地震応答に大きな影響を与えるモードに基づいて選ばれ、振動数に対する減衰の特性を調整するための基準となります。
計算式
ここで、
- ω1,ω2 : 1次および2次の固有振動数
- h1,h2 : それぞれのモードに対応する減衰定数
図: レイリー減衰のイメージ
(振動数に応じた減衰特性のグラフ。低周波では質量比例、そして高周波では剛性比例が支配。)
4. 振動数と減衰の関係
レーリー減衰は、振動数によって減衰特性が異なるため、選定した振動数域に対して適切に設定することが重要です。具体的には、低周波域では質量比例減衰が支配的となり、高周波域では剛性比例減衰が支配的です。
図1: 振動数と減衰の関係
(振動数に応じた減衰特性のグラフ。低周波では質量比例の影響が強く、高周波では剛性比例が支配する。)
5. 実際の適用と注意点
道路橋示方書などの基準では、実験計測に基づいて減衰定数を設定します。レイリー減衰は、特定の周波数域に対して適切な減衰特性を持たせることが可能です。低周波側では質量比例減衰、高周波側では剛性比例減衰が支配的になるため、目的に応じて適切なモードを選択することが重要です。
6. まとめ
レーリー減衰は、構造物の地震応答解析において、減衰特性を簡便に設定できる手法です。正確な非線形解析を行うためには、適切な振動数域を選定し、減衰定数を設定することが重要です。特に、地震の影響を受けやすい主要なモードを考慮して設定することで、解析の精度を高めることができます。
この記事では、レーリー減衰の基本的な考え方と設定方法、具体的な応用例を紹介しました。さらに詳細な解析手法については、参考文献や国土交通省の基準書を参照してください。
参考文献:
- 「有限要素法による振動解析」, 戸川隼人, サイエンス社, 1975
- 「道路橋示方書・同解説 V.耐震設計編」, 日本道路協会, 2012
- 「道路橋示方書・同解説 V.耐震設計編に関する参考資料」, 日本道路協会, 2015